写真1(煙突から出ている煙はお香)
これは何でしょうか。
これはドイツの民芸品でLichthaus(リヒトハウス、複数形ならLichthäuser、リヒトホイザー)というものです。陶器製の家のミニチュアですが、用途は、もちろんそのまま眺めるだけでもいいのですが、中にロウソクなどの明かりを入れて窓から漏れる光を楽しむというものです。それでLicht-Haus、明かりの家と呼ばれるわけです。明かりでなくて、お香を焚いたり、アロマオイルを楽しむこともできます。で、Dufthausと呼ばれることもあります。Duftは「香り」ですから香炉、ですね。一年中楽しんでもいいのでしょうが、ドイツではクリスマスものと意識されているようで、その時期に飾ったり、さらに雪の街のジオラマなどをつくってそこにこの家を配置して楽しんだりします。クリスマスマーケットではかならず1,2軒は店が出ています。
私はこの3月にドイツから帰国しましたが、かの地であらたに見つけてきた趣味がこれです。
私は元々建物を見るのが好きなので、ドイツでも観光はもっぱら建築見物に徹していました。ドイツの伝統的建築はFachwerkhaus――「木組みの家」と呼ばれています。日本人はこのドイツの田舎によく見られる家屋が大好きなようで、そういう家が町中に残っているローテンブルクなどにいっぱい行っていますね。実際そういう木組みの家の実物は形といい模様と言いまさにドイツに来たという気分を満喫させてくれるものですし、芸術品とよんでもいいものですが、ドイツにはそうした家が観光地に限らず、あちこちの町にけっこうあります。築数百年という、日本ならば厄介者扱いにされるか、文化財となるかという家がごく普通に住居や店舗として使われています。家を大切にするという点では日本はドイツに遠く及びません。乾燥したドイツの気候の元では木造の家が長くもつという事情もありましょうが、ともかく家は何世代にわたって住み、住み替え時でも既築の家を選ぶので、一世代ごとに新築するなどという愚かなことをしません。こういう点が生涯支出を抑えて人生を楽しむ方へ支出することに役立っているのかもしれんですね。もっともその代わり、買うとなると古い家でも値下がりはしません。日本では築30年の家は資産価値ゼロと言われますが、ドイツではそんな家はめったにありません。
写真2(ケルンのクリスマスマーケットでの出店)
そんな家を陶器で作ったのがリヒトハウスで、ただ家をかたどっただけの白一色の実用品もたくさん売られていますが、このように嗜好品として作られるものもたくさんあります。しかも、一つ一つが手作りです。正確に言えば粘土をかたどって人の手で成形するので、ハーフ手作りなのですが、それによって値段も抑えられているようで、私にも手が届く金額設定になっています。ドイツに居ればアマゾンで簡単に数千円で買えます。日本の古民家模型もいいのですが、たいてい一点ものの手作りで、数万円するので、趣味にしようとは思いませんでしたが、こちらなら一回の居酒屋代くらいで一個買えるのがありがたい。私は酒が飲めないので、その分をつぎ込むことができます。
ただ壊れ物なので、どのメーカーも直接日本には送れませんとのことでしたので、ドイツにいる間に一生楽しむだけの数を買ってまいりました。私は元来飽きっぽくて一つの趣味が長続きしないので(続いたのは哲学研究だけ)、それで十分かと思っているのですが。
しかしヨーロッパからの輸入雑貨には目がないはずの日本人が、なぜかこれには目を付けていないようで、ネットを見てもほとんどリヒトハウスのことは載っていません。「キャンドルハウス」という名でリトアニア産のものは扱っている業者がありましたが、ドイツのものは出てきません。そこで文化的間隙をうめるため、という大義名分で手に入れたお気に入りを紹介しようかと思っています。引っ越し荷物はいまはまだ海のどこかをさまよっているのですが、5月半ばには届くことになっています。面白そうと思った方は、ご期待ください。
(2019.5.10 黒崎剛)